メトとレコ・第2話

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2.『トモダチ』



 犬人(ドギレンス)の少年メトと、猫人(キャッツレンス)の少年レコが偶然にも出会いを果たし、幾日か経った。
 その出会いによりレコがクラスメートであることを知った(思い出した)メトは、彼と挨拶を交わす程度の仲にはなっていたが、それ以上の進展は無く、いま だ知り合い以上の関係にはなれずにいる。二人とも少なからずそれ以上の進展を期待していたのだが、メトがいまだ猫人に対してのわだかまりを捨てきれず、レ コはそれを言葉にはならないものの敏感に感じ取っているのか挨拶以上に自分から接近してこようとはしなかった。


 そんなある日

 朝、ドギークラウンの学校。登校する人々が朝の静けさを破り、活気にあふれて一日の始まりを示す。
 そんな中で相変わらず水色のパーカーにGパンのいでたちのメトは、登校する人々によって賑やかな廊下をすり抜けつつ自分の教室へと足を進めていた。
「おはよう」
「おはようー」
 教室前方のドアから入り、行き交う数人の犬人と挨拶を交わしつつ、自分の席へと向かう。この頃はここで背後に位置する席から元気な挨拶が来るはずだが、今日はそれが無い。
 それも当然だ、席に座っているはずのレコが居ないのだから。カバンが机に下げられていないところを見ると、まだ来ていないらしい。いつもメトより早い彼にしては珍しいことだ。
「寝坊でもしたのか……?」
 自分を基準に考えるとそんな答えが出るが、どうせ考えても分からないのでそういうことにしておく。さすがにホームルームの前にはやってくるだろうし、とメトはさして気にも留めず、いつものように授業の準備をすると友人達と話をするため席を離れるのだった。



「でさ、今日の……」
「……」
 始業3分前だというのにまだレコは来ない。いつもの犬人の友達と、3人で会話しながらも彼が来ないことが気になるらしく、メトは話を聞かずに椅子の背もたれに顔を乗せてレコの席の方向をボーっと見ている。
「……メト」
「えっ? あ……何だっけ?」
 友達に額を小突かれ、ようやく自分が話を聞いていなかったことに気付いた。すまなさそうに顔を上げる彼を見て、一人は肩を落とし、一人は苦笑して肩をすくめる。
「どうした? ボーっとしてるなんてメトらしくない」
「そ、そうかな? 俺だって考え事の一つや二つ……」
 心配の表情を浮かべて顔を覗き込んでくる赤毛の犬人に、鼻の頭を掻きながら照れくさそうに答えるメト。しかし、横に控えている黒毛の犬人はからかうように口の端を吊り上げて笑う。意地悪な笑みだ。
「……似合わないな」
「何だよそれ……まるで俺がいつも何も考えてないみたいじゃんか」
 ムッとして右隣に座ったまま笑みを浮かべた少年を睨みつけるメト。しかし黒毛の少年ばかりか赤毛の少年までも
『考えてないだろ?』
と、まるでシンクロしたかのようなタイミングで言い放つのだった。
「はぁ……もういい、お前らを友達だと思った俺が馬鹿だった……」
「あーもう、冗談だって、メト」
「本気にするな」
 わざとらしく大きなため息を吐いて椅子から立とうとするメトを、二人は冗談だと言って引き止める。半ば本気で怒ってるらしいメトをなだめすかすのは少し骨が折れたが。

「んで、どうしたんだ?」
 改めて落ち着かせたメトを座らせると先に黒毛の少年が口を開く。なんだかんだとからかったりしても、一応は気になるらしい。
「どうしたって言うか……そこの席の猫人が来ないから、ちょっと気になって」
「猫人ぉ?」
「……猫人」
 二人ともその単語に反応して、即座に顔を変化させた。それも仕方の無いことで、二人は嫌悪派に属する犬人であるからだ。しかしそれ以上に、メトが猫人を気にしていることに対する驚きが顔には表れていたが。
「メト、まさか」
「友達……なのか?」
 驚愕のあまりその表情は引きつっており、話している距離こそ変わらないが空気的に二人が異様に引いているのがよく分かる。まるで世界を区切ったかのような壁すら感じるほどに。
「何だよその顔……友達っつーか知り合いってだけだよ」
「知り合い?」
「ま、あれだけ喧嘩しておいていきなり友達が出来るのも変な話か」
 心底ほっとしたのか、知り合いというメトの言葉に顔の緊張を解く二人。しかし黒毛少年の反応は一言多く、またもメトは眉を曲げた。
「あーのーなー……俺だって何も見境無く猫人嫌って喧嘩してたわけじゃないだろ? それに村長が変わってからは特に何も……」
「そうか?」
「そうだよ」
 猫人をいくら嫌いだからといって、メトは見境無く攻撃していたわけではない。子供同士の喧嘩サイズをしょっちゅう起こしてはいたけれど。ただ、大人同士 の小さないさかいがすぐさま乱闘に発展したり、リンチになったりすることは前村長より昔であればたびたび見かけられた。現村長になってからはその様な事態 はめっきり見かけなくなったが、それでも影では起こっていると噂はされている。
「で、その猫人が居ないから気になってるんだ?」
 と、そこで赤毛の少年がずれた話を戻そうとしたのか口を出してきた。
「う、うん。 ライルはレコって知らないか?」
「レコ? 確か、おとなしそうな猫人だったな」
 ライルは首をひねって思い出そうと試みる。直接の面識があるわけではないが、新学期の折全員がそれぞれ自己紹介をしたために一応記憶には残っているようだ。
「クィードは?」
「いや……俺も自己紹介の時の彼しか知らないな」
 クィードも少し考えるそぶりを見せたが、すぐにライルと目を合わせると、特徴的な赤毛を揺らしながら首を振る。じゃあ他に知ってる人なんて―――そう口に出そうとした時だった。
「ちょっと」
「ん?  げっ……み、ミラーナ」
 突然割り込んできた声に振り向いたメトはそこにある姿に思わず体を反らした。他の二人もメトほどの反応ではないにしろ、眉をひそめ、顔をしかめる。どう見ても友好的な雰囲気には見えないだろう。
「人を見るなり『げっ』とは随分ね?」
 挑発的な笑みを浮かべてそこに居たのは、三毛の猫人の少女だった。ミラーナと呼ばれた彼女は、犬人嫌いを公言してはばからず、度々メトらと衝突したこともある。
「犬人嫌いの猫人が急に声をかけてきたら、身構えるのも仕方の無いことだと思うが?」
 ライルが嫌味たっぷりに返すと、ミラーナの頬がピクと引きつり、二人の間に見えない火花が散る。
「落ち着きなよ二人とも。 朝から先生に怒られる気かー?」
 一気に険悪な雰囲気が立ち込めたが、茶化すようなクィードの言葉にライルは肩をすくめ、ミラーナは小さく舌打ちして、その場は収まった。それでも空気が張り詰めているのは容易に感じ取れる。
「で、ミラーナは何で来たんだ?」
「あんた達が猫人の事を話してたからよ」
 当然と言わんばかりに鼻息荒く、無い胸を張るミラーナ。またか、と言わんばかりに3人は頭を垂れたが。
 このリアクションも当然のことで、ミラーナは猫人特有の聴力のよさを使って、犬人が猫人の話題をしている所があればそこにすっ飛んでいくのだ。猫人が苛 められるのではないかと考えての行動なのだが、それは度を越した防衛行動に近く、その上2種族の仲をこじれさせる元にもなりうるため、結果として2種族か ら疎まれることになっている。
「あのな……お前いい加減猫人の話題が出たからっていじめられてるとか疑うの止めろよ」
「仲間意識が高いのは結構だが、あまり人に迷惑をかけてくれるな」
「これだから猫人は……」
ゆえに3人は口々に彼女を非難する。
「あーのーねー! 大体、そう言いながらあなた達何人猫人を泣かせてきたの!」
 しかしそんな非難などどこ吹く風、ミラーナは声高々にびしりと指を突きつけてきた。その姿勢には微塵の迷いも感じられない。ある意味男らしい。
「えーと……ひぃ、ふぅ、みぃ……」←2年より前を思い出すメト
「お前は今まで食べたパンの枚数を覚えているのか?」←偉そうにクィード
「100人から先は覚えていない!」←威厳を感じさせつつライル

「……」
 三人のそれぞれの態度に、ミラーナはうつむき、無言でその拳を振り上げた。『あ』、と3人がそう思ったのと同時に、

ガッ! ゴッ! ゴガッ!
キーンコーンカーンコーン……

 騒がしかった教室に、鈍い音とチャイムが同時に響き渡った。それに伴ってざわついていた教室は雰囲気を慌しく変化させ、徐々に生徒たちは自分の席へと戻り始める。
「反省しなさいッ!」
『あだだだ……』
 頭を押さえる3人を尻目に、肩を怒らせてミラーナもまた自分の席へと戻っていった。態度もそうだが腕っぷしもまさに男勝りである。
「……」
「へへっ」
「やれやれ」
 三人もまた、互いの目線を交わし、肩をすくめて苦笑すると席へと着くのであった。もちろん痛む頭をさすりながら。
 と、メトは自分の席に着こうとしたとき、後ろの席の主が未だ不在であることに気づいた。
「なんだ、結局こなか……」
 ったな、とメトが続けようとしたその時、ぱたぱたと軽い足音を立てながら教室に目的の人が勢いよくやってきた。よほど急いで走ってきたのだろう、肩で大きく息をつきながら自分の席に近づいてくる。
「お、おは、おはよ……メト君」
「おはよう……今日は遅かったな。 どうしたんだ?」
 着席する前に息を切らせながらもなんとか挨拶をしてくるレコ。メトは椅子を倒し、顔を彼に向けた。逆さまに見えるレコの耳は赤く染まり、照れているようにも見えなくも無い。急いできたから体が熱くなってるんだろうけど。
「うん、ちょっと、寝坊しちゃって。 もしかして心配させた?」
 表情を曇らせたレコの言葉に、メトが――自分でも何故そんなに慌てるのかと思うほど――慌て、椅子を戻して改めて振り向く。
「お、俺が心配するわけ無いだろ。 いつも挨拶してるのに今日はいないから気になっただけだよ」
「そっか……それもそうだね」
 ぶっきらぼうな言葉だけど、メトの態度は分かりやすく、苦笑をもらしながらも彼の言葉を肯定した。その心の中でありがとうと言いながら。
「……むう」
 前に向き直ったはいいが、安心している自分に気付いたメトは複雑な気分になって、直後始まったHRも、先生の言葉はあまり耳に入ってこなかった。



 放課後―――結局朝話した以上にレコと話すことは無く、ほぼいつも通りの日常となって今日も日が暮れようとしていた。
 しかし放課後は、予想していた『いつも通り』で終わることは無かった。
 夕日が差し込む教室で一人メトはしゃがみ込み、必死に目線を行き来させている。目を皿のようにして何かを探しているようだが、それが見つかる気配は無い。
「っかしいなあ……どこいったんだろ?」
 一度床から目を離し、見逃していやしないかと既に何度も中身を改めたカバンをあさってみる。当然だが目的のそれは出てこない。分かっているはずなのに、もしかしたらとかすかな希望を抱き、それが幾度となく打ち砕かれていた。
「なんだよ……これじゃ家に帰れないじゃんか……」
 共に探してくれるはずの友人は、すぐに見つかるだろうと思って先に帰してしまっていた。このまま見つけられなかったら一生家に帰れないんじゃないか、夕日も相まってそんな不安な考えが頭をよぎる。
 それだけはイヤだ。
「どこだ……どこだよ……?」
 焦りは既に頂点に達し、もう感情を取り繕っている余裕は無い。先に探したところを再び探してみるがやはり見つからない。嗅覚に頼って探せないことも無いが、自分の匂いを嗅ぎ分けるのはかなり難しい。とうとうメトは泣きべそをかき始めてしまった。
「どうしてないんだよぉ……」
 床にへたり込み、鼻をぐすぐすと鳴らして脱力してしまうメト。目じりからは涙があふれ、床に零れ落ちていく。もうダメなんだろうかと半ば諦めたその時、ガラガラと教室のドアが開いた。
「!」
 突然のドアが開く音に、メトは慌てて目元をぬぐって入り口を振り向く。こんな格好悪いところを見られぐらいなら、廊下に立たされているほうがマシだとさえ思う。
「メト君……? どうしたの?」
 そこに立っているのは、きょとんとした表情のレコ。どうしてメトがここにいるのか分からない、とその顔からは容易に読み取れた。が、それはメトも同じだ。
「い、いや別に、ちょっと宿題のノート・・忘れたから取りに来たんだよ」
「そうなんだ……あれ? 今日は宿題無かったんじゃなかったっけ?」
 強がりでメトはつい嘘をつく。しかし、それはレコの言葉によってあっさりと崩されてしまう。今日の宿題は特に出されず、授業が終わる際に喜んでいたぐらいだ。
「あ、うー……その……」
 宿題があると思っていた、と言う言い訳は通用しなさそうであることはいくら子供でも分かる。さらに言えば、もし言ったとしても、しょっちゅう宿題を忘れ るメトの言葉の信憑性は、あまり無い。言葉に詰まる彼の様子を不思議そうにレコは見ていたが、やがて彼のカバンと乱雑な机の配置を交互に見比べると、していたことを悟った。
「探し物? 一緒に探してあげるよ?」
「ほ、ほんとか?」
 その言葉を聞いたとたん、目を輝かせてメトはレコに向き直った。いつもであれば強がってそんな誘いは突っぱねてしまうところだが、心細い今にこんなに心強いことは無い。
「うん。 で、何を探せばいいの?」
「……家の鍵……今日家に誰も居ないから、俺一人だけなんだよ」
 今日は親が外泊のため、学校のあるメトだけはここの村に残って、一人で帰るはずだった。そのために鍵を持ってきたのだが、帰るときになって鍵が無いことに気づいたのだ。
 なるほど、とレコは一人うなずき、暗くなり始めた教室に電気をつける。鍵を探すのに必死で忘れていたが、電気がついているのといないのとではかなり違う。
「分かった、じゃあ僕はこっちの方探すから、君はあっちを探して」
「う、うん」



 ほどなく、二人はそれぞれの場所で鍵を探していたが、すぐにため息をつくことになった。それもそうだ。いかに教室が自分の部屋より広くても、掃除が終わった後の教室で銀色に光る鍵はすぐに目に留まるはず。
「はぁ……見つからないね」
「ああ……どこいったんだろ? このままじゃ帰れないし……」
 床に座り込んで途方にくれる二人。既に夕日は沈み、暗闇が辺りを包んでいる。メトの不安は二人で探しているという安心からか、先ほどよりかなり少なくなっていたが。
 しかし、未だ電気のついている教室はここだけだ。あと何分かすれば当直の先生がやってきて、学校から締め出されてしまうだろう。その前になんとしても見つけなくては。
「ねぇ、メト君」
「え?」
 などと考えているところに、レコが唐突に話しかけてきた。心なしかちょっと耳の皮膚が赤い。
「あの……僕の家に泊まっていく?」
「は?」
 何を言っているんだといった表情で、メトは大きく口を開けて固まってしまった。レコもそれに呼応するかのようにうつむき加減で合わせた両手の指をくるくると回して続ける。
「だ、だってこのまま見つからなかったら、メト君帰れないでしょ? それにもうすぐ学校は閉まっちゃうし……」
「うーん……ありがたいけど、なぁ……」
 今までただ挨拶するだけの仲でしかなかった彼の家に泊まる、という選択に抵抗が生じるのも当然だろう。うなりながら答えを迷っているメトの肩越しに、木製の掃除用具入れがレコの目に入った。
「そういえば……ここ、調べた?」
 レコは近づいて戸板をコンコンと叩きながらメトに示す。
「え? あ、まだ探してないな」
 誰かに隠された覚えも無いし、そんなところに入っているはずが無いだろう、そう思ってメトは探していなかった。そんなメトの考えはよそにレコは用具入れを開け放ち、ガタガタと中をあさり始める。身を屈め、自分のために必死になっているその姿に、いまさらながら申し訳なく感じた。
「今日掃除当番、メト君だったよね……もしかして」
がさがさがさがさ……ちゃりっ
「あった!!」
「え! マジ!?」
 かすかな金属音と共に、レコは跳ね上がるかのようにして体を起こし、高々と左手を掲げた。まさかそんなところに、と思っていたメトも慌てて駆け寄り、その手に握られている金属製のものを確かめる。
「ホントだ……俺の家の鍵だ」
「多分ホウキかバケツを入れるときに落としちゃったんじゃないの?」
 服についたホコリを払い落としながら、レコはどこと無く得意げだ。うんうんとうなずきながら、メトの顔は喜びに緩み、満面の笑みを浮かべている。
「ありがとう! 助かったぜ!」
「う、うん。 よかった、見つかって」
 ぶんぶんぶんとレコの手を握って勢いよく振るメト。はたから見ればかなりの勢いのそれだが、レコの顔も、喜びに顔をほころばせていたのだった。



 さらに数分後、校門前。鍵を見つけた直後、当直の先生に見つかった二人は、あっさりと校外へと締め出された。しかし校門の前で今二人は楽しげに話している。
「今日は助かった……どうもありがとな」
 くしゃくしゃとメトが彼の頭を撫で回す。あんまり身長の差がないので、なんとなくアンバランスな光景だが。
「う、うん、役に立ててよかったよ」
 耳を伏せ、尻尾を足の間に下ろしながら、恥ずかしそうなレコ。同年代の子になでられるなんてあまり無くて、照れくさいのだろう。
「……俺さ」
「ふぇ?」
 手を離したメトが、声のトーンを落として高く上がった月に目線を向けた。今までの子供らしかった表情とは比べるべくもないほど、険しい表情だ。
「猫人のこと今まで、誤解してたみたいだ……皆が皆、卑怯な奴なんだって思ってた……」
「メト君……」
 自分の心境を告白するメトの表情は辛そうで、レコは心配そうにその顔を見つめる。
「……お前みたいな、いい奴も居るんだよな。 ありがとう」
「ぼ、ぼく……が? こ、こちらこそ、ありがとう」
 優しい笑顔のメトにこれまた優しく言われたレコは、まずきょとんとして、次に恥ずかしさのあまりなってうつむいてしまった。犬人に続けざまにこんなことを言われるとは、予想だにしなかったことだ。
 なんだかすごく恥ずかしい……が、意外な言葉はそれだけにとどまらなかった。
「だから……友達になってくれないか?」
「え……? ほ、ホントに?」
「うん。 その……お前が、嫌じゃなければ、だけど」
 嘘を言っているようには見えない……と、レコはそこで疑えるような大人の思考を持っていないので、その顔は一気に喜びに染まって笑顔となった。猫人は結構思考が単純に出来ている。良し悪しはともかく、それは筋金入りだ。
「嫌なわけないよ……ありがとう! メト君!」
「わぁっ! だ、抱きつくなぁ!」
 いきなりがばっと抱きつかれて、メトはバランスを崩しそうになってあわてて踏ん張った。なんとか倒れはしなかったが、レコは甘えるかのように頭を彼の頬にこすり付けてくる。
「は、離れろって! 動きづらい……!」
「あ、ご、ごめん」
 ついついまるで親に甘えるかのような行動をしてしまった自分が恥ずかしい。腕を離すと、耳を垂らしつつもいたずらっぽく舌を出した。
「それじゃ……また、明日な」
「うん、またね!」
 少しため息を吐くメトの前で、レコは自分の家とは逆方向に駆けていく。そういえば、あいつとは夜の時間で縁があるなあ……彼の後姿に手を振りながら、校門の前のメトはそう思っていた。


 こうして彼らは種族を超え、友達としての絆を結ぶこととなった。これから先二人に何があるのかはまだ誰も知らない……。



おまけ

Q「……あれっ? そういえば何であいつこんな時間まで残ってたんだ?」


A 屋上で夕日を浴びながら寝てたらいつの間にか下校時刻を回っていたのでした。


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